日本簿記学会第40回大会における理事選挙,および,理事会における会長選挙により第13代目の会長となりました橋本武久でございます。歴代に会長に比して,浅学菲才であることを自覚しておりますが,本学会の繁栄のため全力を尽くす所存です。
さて,私は簿記の歴史を研究し,長い歴史に耐え継承されてきた世界共通の経済言語でもある複式簿記のスキルや論理の存在意義は大きいと確信しております。しかし,その一方で,今日,「簿記離れ」という言葉が聞かれるようになって久しく,また,大学入試共通テストから「簿記・会計」という科目が廃止されるなど,本学会を取り巻く環境の変化,厳しさについても認識し,強い危機感を持っております。
そこで私は,次の2つの目標を掲げたいと思います。
第1は,「開かれた学会」の原点に立ち返ることです。本学会は,歴代の会長が述べてこられましたように,創立以来,「会則」に「簿記に関心を持つ研究者,教育者および実務家は,…本会の正会員または準会員となることができる」(第 4 条第 1 項)と規定し,会員を大学教員に限定することなく,高等学校,専門学校,そして,職業会計人の方も会員となることができる「開かれた学会」を標榜して参りました。多様性の時代といわれる今日を先取りした様々な属性を持つ学会員が,それぞれの立場から簿記の理論,教育,実務を研究するという他に類を見ないユニークな学会であります。私はまず,本学会のこの誇るべき特長をさらに発展させていきたいと考え,これまで以上に様々な方々の入会を促進する行動を起こして参りたく存じます。
第2は,「簿記なくして会計なし」を強く意識し,簿記あってこその会計を追求することです。本学会の目的は,設立趣旨において,「簿記の理論,実務および教育などの振興をはかり,会計学および会計実務の一層の発展に寄与すること」とされています。故 安平昭二元会長は,簿記が会計学の基底的な学問領域であることを指して,「簿記なくして会計なし」と述べられました。今日の会計学研究の中には,簿記とは無縁の議論も多くあるように思います。しかし,企業活動の会計数値を用いて研究を行う場合,それらは複式簿記のシステムから導き出されたものであり,それゆえ,簿記の論理を知らずして正確な検討や理解はできないはずです。私は,今さらではありますが簿記の重要性を啓蒙し,簿記離れを食い止める活動にも力を入れていきたいと考えます。
このような目標を掲げ,私は,本学会のさらなる発展のために全力を尽くしてまいりますので,会員の皆様には何卒ご理解とご協力のほど,お願い申し上げます。
令和6年9月24日
橋本武久